ヘルシオホットクックで作る消毒用エタノール

初代のヘルシオホットクック(KN-HT99A-R)を2017年に購入し便利に使っていますが、定番の一つである塩麹や甘酒を作る際に使用する消毒用エタノールが底をつきました。消毒用エタノールを購入しようとしましたが、昨今の新型コロナウイルスの影響で入手困難な状況です。

一つの策として、機械のメンテナンス用にストックしておいた無水エタノールに水を加えて消毒用とすることも検討しましたが、ネットでも実店舗でも無水エタノールも払底しており、むしろ、個人では作ることの困難な無水エタノールを温存し、蒸留により、消毒用に適したエタノール水溶液を作る事にしました。

これから記す内容は、ホットクック本来の使い方ではなく、「安全上のご注意」に記されている項目に抵触する可能性があります。また、アルコールは可燃物であり、取扱う上で危険を伴います。(特に、直火は厳禁です。)

従って安易にまねをするだけでは、期待する結果が得られないだけでなく、自身を危険にさらすことになります。また、ホットクックの故障リスクも低くはなく、修理に応じてもらえない可能性もあります。

自分で考え、十分な注意を払った上で、緊急時対応を含めて自分で判断する自信のある方限定のアイテムです。

準備するもの

ヘルシオホットクック(KN-HT99A-R)以外に以下の物を調達します。

規模の大きいホームセンターに行けばアルコール濃度計以外はワンストップで調達できると思います。

      • アルコール濃度計(屈折式で2~3000円位)
      • 銅製パイプ(外径:4mm 長さ:約100mm)
      • シリコンチューブ[細](内径:4mm 外径:6mm 長さ:必要な長さ)
      • シリコンチューブ[太](内径:5mm 外径:7mm 長さ:約20mm)

なお、アルミパイプはアルコールに溶け出すので使うことができません。銅については、アルコールに溶け出すことはありませんが、パイプに変色が発生します。今回の試行では、加工の容易さから、変色を許容して銅パイプを使用しています。心配な方はステンレスパイプ等を使うと良いでしょう。

      • ポリエチレン製細口瓶(1000ml 500ml等 必要なだけ)
      • プラスチック容器(大き目のポリエチレン製密閉容器の本体等)
      • 写真にはありませんが、ロートがあると便利です

      • 甲類焼酎(20~35度)・・・高濃度の方が抽出は容易
      • イソプロパノール

コロナの影響でイソプロパノールも品薄です。ガソリンタンク用の水抜き剤の一部は代用可能ですが、防錆剤を含むものは残滓として残るのであまりお勧めできません。

冷却器本体の製作

最初に、銅製パイプを円形に曲げながら、スパイラル状に成型します。直径は特にこだわる必要はありません。スチール製の缶に巻き付ける形で成形して行きます。

コツとしては、無理にパイプの端から曲げようとせず、パイプの途中から曲げ始めてそれぞれの両端に向けて曲げて行けば容易に曲げることができます。

また、パイプを曲げる際には密に作り、曲げ終わってからパイプの間隔を広げて行くのが良いでしょう。

シリコンチューブの取付け

シリコンチューブ[太]を約10mmに切断した物を二つ準備し、あらかじめ冷却器の両端に通しておきます。(ストッパとして使います)

次にシリコンチューブ[細]を冷却器端に約10mm程差し込みます。

最後にあらかじめ通しておいたシリコンチューブ[太]を[細]の上に重ね、ストッパとします。

レイアウトに合わせてチューブを適当な長さにカットします。冷却器両端にシリコンチューブを取り付ければ冷却器本体の完成です。

冷却チェンバの加工

容量1リットル以上の容器を準備します。写真に写っている容器は大手百円ショップで売っている容量1700と表記のあるポリエチレン製の密閉容器の本体です。(使い古しの物を使用しています)

下部にシリコンチューブ[細]を通す穴をあけます。チューブの外径が6mmなので、漏水しない様に直径5.5mmの穴を開け、チューブを通します。

上部にも穴を開けますが、この穴から加熱されて暖かくなった冷却水を排水します。穴の大きさは適当で構いませんが、供給される水量に見合った大きさにすることで、容器側面を伝わらずに排出することができます。(とはいえ、容器側面を伝わってしまっても支障ない配置とすれば、特にこだわる必要はありません。)

冷却器の組み立て

組み立てというほど大げさなものではありませんが、冷却チェンバの中にチューブを取り付けた冷却器本体を入れて、下部の穴からシリコンチューブを通します。写真の様に、排出側のチューブは多少長めに作っておいて、冷却チェンバから出す長さを調節すれば良いでしょう。

ここで、一点注意事項があります。排出側のチューブはチェンバの下部に穴を開け、必ず穴を通してスムーズに滴下する構造にする必要があります。

手を抜いて穴を開けずにチェンバの上方を経由して滴下すると、排出の際に圧力が必要となり、ホットクック側の圧力が上がり、アルコールを含んだ蒸気が噴出する恐れがあります。チューブの取り回しは極力排圧が低くなる様に設置することが肝要です。

装置全体の設置

ホットクック(KN-HT99A-R)、冷却器、アルコールを入れる容器、給水用の蛇口の配置を大まかに決め、実際に配置してみます。

上のレイアウトにこだわる必要は無く、任意の配置で構いません。シリコンチューブの長さは配置に合わせて(少し余裕をもって)決めれば良いでしょう。

上を完成予定図として設置して行きます。以下に手順を示します。

まず、冷却器の入力側のチューブをホットクックに取り付けます。

        • チューブを斜めにカットします
        • 斜めカットしたチューブの先端を、取り外した「蒸気口カバー」に通します

        • 「蒸気口カバー」を本体に取り付けます。
        • 「内ぶた」の穴にチューブを通します。
        • チューブを引っ張って適当な位置となる様に調節します

次に排出側のチューブがアルコールを入れる容器の上部に配置される様に調節します。この際、チューブ先端が容器の底や中ごろに位置しないことが肝要です。理由は、チューブの先端が排出された液体中に位置すると排圧が上がり、ホットクック側の圧力が上がり、アルコールを含んだ蒸気が噴出する恐れがあるためです。蒸留中を通して、滴下する状態を保持できる位置に配置します。

最後に冷却水のフローを確認します。

蛇口はチェンバのやや端に配置し、排水口は支障の無い位置とし、実際に水を満たして、排水がスムーズに行われることを確認します。

以上で装置の準備は完了ですが、この後、重要な確認事項と作業があります。

内鍋の清浄度を確認する

消毒用アルコールには清浄度が求められます。従って、内鍋にも厳しい清浄度が求められます。

内鍋に一点の曇りもあってはなりません。曇りがある場合は汚れを徹底的に落とした後、メラミンスポンジ等で磨き上げてください。

ヘルシオホットクックの内鍋洗いの「切り札」

内鍋ほど汚れは付着していないと思いますが、内ぶたは洗剤で繰り返し丁寧に洗います。

冷却器のクリーニング

試運転を兼ねて冷却器内部をクリーニングします。

排出されるのは水なので、容器は外します。代わりにグラスなどで滴下する水を受けても良いでしょう。

        • 内鍋に200ml程度の水を入れ、ふたを閉めます。
        • メニューを「蒸し物」に設定し加熱を開始します。(時間は適当に)
        • 蒸気が発生し冷却器で復水され、滴下排出されることを確認します
        • 復水後の液体と気体の割合などを観察しながらしばらく加熱を続けます
        • 様子を見て適当なところで切り上げます。
        • ホットクックを停止させたら、ホットクックのふたを数度開閉します。 ->冷却器の液体が強制排出されます

水だけの場合、ホットクックから発生する水蒸気量が以外に少ないことが分かります。アルコールの蒸留をどこで終えるかを判断する一つの手がかりとして、液体と気体の割合があり、液体に対して気体の割合が多くなったら水分量が多くなったと判断出来ることが分かります。

蒸留開始(1回目)

一度に蒸留する量は適当で構わないと思いますが、種々の換算が容易になる様に、例として、1000mlを蒸留し、体積比で約80%のエタノール水溶液を作ることにします。

原料は甲類焼酎を用います。今回は35度の果実酒用の焼酎を例として用いることにします。

なお、イソプロパノールを加えなくても蒸留は可能ですが、酒税法違反となる可能性があるので、必ず加えます。

また、蒸留した結果として、エタノール+イソプロパノール+水の混合液が得られますが、蒸留の過程で、エタノールとイソプロパノールの比率が変化すると考えられ、厳密な表現が困難であることから、「エタノール+イソプロパノール」は簡便化のために、単に「エタノール」と記しますので以下、読み替えてください。

        • 甲類焼酎(35度)1000mlを内鍋に入れふたを閉めます
        • イソプロパノールを20ml程度加えます
        • メニューから「蒸し物」を選び、60分に設定し加熱を開始します

        • しばらくすると、蒸気が出てきて、蒸留が始まります
        • 滴下されたアルコール濃度を確認すると、80%以上を示すはずです

        • このまま蒸留を続けると次第にパイプ内の液体の割合が多くなってきます

消毒用エタノール採取(1回目)

蒸留開始初期は、体積比で80%以上のエタノールの混合水溶液が得られていますが、蒸留が進むに従い、エタノール濃度が下がってきます。

上の写真の様に濃度の低下に伴い気体の割合が増えてきます。

滴下されているエタノールを時々チェックして、80%を割り込む様になったら、容器内のエタノールの濃度を確認し始め、80%になったら容器を交換します。一度目の蒸留で体積比約80%のエタノールが得られたことになります。

実際は、80%ちょうどで交換するのではなく、やや濃いめの時点で交換するのが良いでしょう。

(参考)気温20~22°Cの環境で約220mlが取れました。滴下開始から30分。

容器交換後も蒸留を続けます。

蒸留停止の見極め(1回目)

容器交換後のエタノール滴下速度はかなり遅くなります。蒸留停止の見極めは滴下されるエタノール濃度が原料濃度である35%を下回った時を目途とします。

クリーニングを行った際に判明している通り、水の蒸発量は比較的少なく、多少の蒸留時間の超過は大勢に影響しないと考えられます。

従って、頻繁に測定を行わずとも、液体と気体の割合が同等になった段階でエタノール濃度を確認し始め、35度を確実に下回った段階で停止すれば良いでしょう。

停止後、ホットクックのふたを何度か開閉し、冷却器内部の液体を強制排出します。

(参考)容器交換後に得られたエタノール濃度は55%前後、250ml/容器交換後90分

(参考)鍋に残った液は3%以下、約400ml

※濃度、所要時間などはコンディションにより変化します

今回の例では、一回目の蒸留で、80%より少し濃いめのエタノール水溶液が200ml以上、約55%のエタノール水溶液が250ml得られました。80%の方はこのまま消毒用として使用可能ですが、55%では濃度が足りません。そこで、再蒸留を行います。

蒸留開始(2回目)

1回目の蒸留で2つ目の容器にたまった物を再蒸留します。

まず、1回目の蒸留で内鍋に残った液を別の容器に移します。(希釈用に使う可能性があるので、捨てるのは最後にします。)

        • 2つ目の容器の液を全量内鍋に入れます
        • メニューから「蒸し物」を選び、60分に設定し加熱を開始します
        • しばらくすると、蒸気が出てきて、蒸留が始まります
        • 滴下されたアルコール濃度を確認すると、80%以上を示すはずです
        • このまま蒸留を続けると次第にパイプ内の液体の割合が多くなってきます
        • 容器内の濃度を確認します(80%以上あることを確認)
        • 同時に滴下される濃度を確認します(35%が判断基準)

再蒸留を停止する契機は2通りのケースが考えられます。

ケース1:滴下されるエタノール濃度が35%以下になった時

ケース2:容器内のエタノール濃度が80%となった時

ケース1の場合、容器内のエタノール濃度により、希釈が必要となります。一回目の蒸留の際の残りの液で希釈し、80%(+)に調整します。

なお、内鍋に残った液のエタノール濃度は5%以下となっているはずです。この濃度からエタノールを更に取り出すには時間とエネルギーを要すので廃棄することにします。

ケース2の場合は内鍋に残った液のエタノール濃度により、再利用を検討しても良いかもしれません。

今回の例では、ケース1とケース2がほぼ同時に起こりました。

(参考)80%エタノール140ml 滴下開始から約20分 残りは約4%

まとめ

甲類焼酎を原料として、ヘルシオホットクックと簡単な冷却器により、消毒用エタノール(約80%)を作る事が出来ました。蒸留後の残滓は全くないので、エタノールの純度は高いと推定できます。ただし、イソプロパノールを含むので、機器の消毒を行う際は十分に揮発させてから使います。

(参考)今回の例では、1000mlの35度焼酎から、2回の蒸留で、80%(+)エタノールを合計360mlを作り出すことができましたが、歩留まりがやや悪い印象を持ちました。

蒸留においては、加熱時のスピード重要であり、一般的には、蒸留開始(滴下開始)からの温度上昇が緩やかな方が蒸留に適しています。今までの経験からも、一度に蒸留する量を多くした方が、高濃度のエタノールを効率よく抽出できる印象があります。ただし、時間はかかります。

また、適量を見出せば、全量を複数回(例えば2回)蒸留することで消毒用エタノールに適した濃度に出来る可能性もあり、濃度計が無い環境でも消毒用エタノールを作れる可能性があります。(今後の課題)

今回は使い慣れている「蒸し物」メニューで蒸留しましたが、他のメニューで適したものがあるかもしれません。余裕のある方はお試しください。

[注意事項の追記]

最近、消毒用エタノールの火災と誤用のニュースが報じられています。

高濃度エタノールは消防法の適用となる場合があります。具体的にはグレンウイスキー(概ね80度以上)を大量に貯蔵するウイスキーの製造所は消防法の適用を受け、定期的な立ち入り検査が行われています。個人による少量の貯蔵は消防法の適用は受けませんが、気を付けて取り扱う必要があります。

 

誤用にも関係しますが、保存容器にも注意が必要です。できれば、他用途の容器の使いまわしは行わず、もし行う場合は、元々貼ってあったラベルは完全にはがし、必ず内容が分かる様にラベルを張り替えます。(上の写真は一例ですが、手書きでも良いと思います。)

焼酎の容器としてPETが使われていることから、アルコール用として問題の無いPETもありますが、PETといってもいろいろあり、アルコールで脆くなるものもあるので注意が必要です。写真に写っているアトマイザー(スプレーボトル)はPETG製で、注意書きを添えて使っています。アトマイザーもポリエチレン製を使えばより安心でしょう。

また、対策品は別として、プラスチックは基本的に紫外線により劣化するものなので、直射日光に長時間曝さない等の注意が必要です。

気を付けて使いましょう。